29年と81日ぶりの出会い、一生かけた生きがい 『planetarian~星の人~』
こんにちは、おっさんです。
今日は『planetarian~星の人~』の劇場公開前夜祭として、先行視聴、津田監督のトークショー、さらにはグッズ(劇場パンフレット)を購入した方限定の監督サイン会まであったイベントに参加してまいりました。
イベントの様子も少しだけふれながら、映画『planetarian~星の人~』のレビューをしていきたいと思います。 なお、本記事についてどこまでをネタバレとするか迷ったのですが、基本的には原作が公開されているうえ、配信版として別視点での映像がすでに一般公開されていますので、「?」付きでのタイトル表記となりましたこと、ご了承ください。
最初に言っておかなければいけないこと
まず、僕は実はこの作品について今回のプロジェクトで初めて触れました。配信版と劇場版、それが僕の中の『planetarian』のすべてです。
ですので、ここで書いていることは、もう最初に本作に触れた人の、素の感覚になります。原作が初めて発売されてから、長い間待ち続けた人のような深い考察はできません。そのことについては最初に書いておく必要があると思い、この項目を設けさせていただきました。
ただ、ですね。
イベント後のサイン会でそのことを津田監督に正直に白状したところ、
「にわかって何ですか? いいじゃないですか、好きになってくれたならそれが一番うれしいことです」
と温かい言葉をかけていただき。ああ、この作品はだからこれだけ温かいんだ、と理解しました。だからこそ、この記事を書いています。
良い作品はスタッフの愛から生まれる
これは僕が常々思っていることです。
特に原作ありのアニメ作品で顕著な傾向だと思います。 インタビューなどでも、ビジネスとかではなく、本当にその作品が好きだから素直に魅力を語っていることがにじみ出てくる、そんな作品。
実は本項はパンフレットからそういう部分を切り出して構成しようと考えていました。 ところが、どこを切り取っても愛と熱意があふれんばかりで、切り取ったときに「これじゃ足りない、あそこも、ここも!」となってしまい、結局断念しました。
『君の名は。』もそうでしたが、それだけ熱意のある作品だと、自然とパンフレットのクオリティも素晴らしいものになるんですね。
すべてのページ、すべてのスタッフから愛と熱意がこぼれんばかりに詰め込まれた、すごいパンフレットになっていました。
映画評論家のレビューというのはよく見ますが、本職のプラネタリウム解説員や館長が、本職だからこその視点で作品の魅力を語る、なんて他ではまず見れません。
ほかのスタッフインタビューも美術資料も、とにかく買って損のない、というか本作を見たならば買わないともったいない仕上がりになっています。
個人的には、本作を気に入った方でしたら、ぜひ買って読んでいただきたい、と思います。映画も見てパンフレットも買って、となると出費もバカにならないのですが、それだけの価値はあるなぁ、というのが正直な思いです。
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本作で描かれた世界について
本作はもともと、Keyの提唱するキネティックノベルの第1回作品として、2004年11月に発売されたPCゲーム、『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』の一部およびその補完エピソードに当たるノベル、シナリオを担当した涼元悠一氏のサイトに掲載された加筆部分を原作としています。
世界大戦とその時に使用された兵器のせいで人口は激変し、また気象も変化しています。さらには遺伝子異常も見られ、もう人類に未来はないと思えるようなディストピアなSF世界での出来事です。
ありていに言ってしまえば、本作の舞台となる地球は視聴後のトークショーで津田監督自身がおっしゃられていたように「(すでに)終わっちゃってる」世界なわけです。
ですが、そういう世界だからこそ、人として大事なことを鮮明に描くストーリーができるのだと思わされます。そういう世界で、もう分厚い雲と雪に覆われて、空に星があることすら知らない世代が誕生していく中だからこそ、星をみあげることの大事さを次世代に伝えていくことに価値が出てくるのです。
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ストーリーの振り返り
主人公であり、本作の語り部でもある「星の人」がかつて「屑屋」であったころ、戦争でもう誰も住まなくなった封印都市で、あるロボットに出会いました。
そのロボット、「ゆめみ」にとって「屑屋」は、実に29年と81日ぶりに迎えた大切な人間のお客様です。
ゆめみは彼一人のために、もはや誰もみることがなくなった、見る人自体がいなくなってしまったプラネタリウムの特別投影と解説を始めようとするのです。
それが二人の出会いでした。
ですが、肝心のプラネタリウム投影装置は故障中、二人は頑張って直すのですが、やがて街に供給されていた電力は完全に断たれてしまい、特別投影は中断を余儀なくされます。
しかし「屑屋」は君の言葉だけでいいから特別投影を続けてくれ、とゆめみに頼むのです。 修理の間のわずかな時間ですが、二人にはそういう確かな交流が生まれていました。
……絶望的な世界を生きてきた「星の人」がその時の出会いと、後の悲しい別れを回想しながら、人生の最後を迎える直前に後継者と出会う、星空の価値を次世代につなげることができる、それが本作のメインプロットになります。
そしてその人生の最後の瞬間、「屑屋」に戻った「星の人」は再び「ゆめみ」と出会い、こうつぶやくのです。
「報われた」、と。
人間とロボットの違うところ、同じところ
本作を特徴づけている設定として、主人公である「屑屋」(=「星の人」)は人間であり、ヒロイン「ゆめみ」はロボットだということがあげられます。
なので、ほかのKey作品と違って、二人の間には少なくとも直接的な恋愛要素はありません。
例えば人間である屑屋は夢をみますが、ゆめみはそれができません。
屑屋は涙を流せますが、ゆめみにその機能はなくうらやましく思っています。
そして屑屋は悩み考えることができますが、ゆめみはロボットであるがゆえに、プログラムされた目的にそって迷いなく行動し、だからこそ前に進むことができないでいます。 世界の変化を理解しながら、そんなわけない、自分の故障であると考えてしまいます。
そんな二人が最後に、同じ思い、すなわち、もう一度会えてよかった、という思いを同じように感じることができたのだと、僕は本作のラストはそういうことだと信じています。
配信版と劇場版について
本作ですが、劇場公開に先行する形で、『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』というタイトルでWeb配信されています。
これは本作のなかの回想シーン、二人の出会いから別れまでを「ゆめみ」の視点を起点として描いた作品です。
一方で本作は「星の人」の主観となります。
パンフレットの言葉を借りるならば、
『ちいさなほしのゆめ』はゆめみの物語、 『星の人』は屑屋の物語です。
という位置づけになります。 劇場版を視聴するにあたり、必ずしも配信版を見ておく必要はありません。屑屋による回想という形でそのエピソードはしっかりと描かれています。 そういう意味では、むしろストーリーのネタバレを避けるには配信版を未視聴のまま劇場版を見るべきなのです。 が、その時ゆめみはどう感じていたか、を知るためには観ておいたほうがいい、という構成になっています。
正直どちらが正しいかわかりません。ただ僕はもう一度、今度は原作までさかのぼってきちんと見直したうえで、もう一回、劇場版を見たくなりました。
多分、それで十分なのです。
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音楽について
本作の音楽で特に印象的なのは、なんども流れる「いつくしみふかき」でしょう。
流れる場面に合わせて、その時のキャラクターに合わせて、そのたびにアレンジを変えて、でもやっぱりそれらはすべて「いつくしみふかき」なのです。
それは人の世界の変化を理解し、誰もいない都市に取り残される寂しさもわかっていたゆめみが、それでも常に人間に向ける無償の愛に通じるものだと思います。
また劇場版メインテーマとして流れる「星の舟」のすばらしさといったら!
実はこの曲が流れるエンディングの背景は、パンフレットの年表を見る限り本作の数千年後の出来事のはずなのですが、それだけの長さ人間の情報を伝え続けたことを表すかのような壮大で、でも繊細ではかなげな曲になっていました。
原作未読な僕ですが、何の情報量もないエンディング背景だけで何をやろうとしたのかわかる、素晴らしいエンディングに仕上がっています。
最後に言いたいこと
最初に書いたように、僕は本プロジェクトで『planetarian』を知ったにわかです。
ですが、この作品が多くの人に愛されて作り上げられたことは理解できました。 劇場にも12年待った、という人がいらしていましたし、トークショーの質問パートでまだ映像化されていないエピソードについて、これからも待てる旨おっしゃっていました。
そういう方から見ても、12年という時間が「報われた」良い作品だったと思います。
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