おっさん、映画を見る

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少し違う何かを受け入れて乗り越えるということ 『聲の形』レビュー

こんにちは、おっさんです。

東宝の大作攻勢が続く中、本作と『超高速!参勤交代 リターンズ』で松竹の反撃なるか。 また、『君の名は。』や『planetarian~星の人~』といった良作アニメ映画がヒットを続ける中、その波にのることが出来るのか。

そのテーマ性がどう評価されるのかも含めて、いろいろと興味深い『聲の形』のレビューです。

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京都アニメーションとは? 山田尚子とは?

本作の制作は京都アニメーションです。1981年に近所の主婦でタツノコプロサンライズの仕上げの仕事を始めたことがきかけという移植のアニメーション制作スタジオになります。 近年では『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズや『けいおん!』シリーズで人気を博しました。

また監督の山田尚子さんは京都アニメーション所属の新進女性監督です。 2011年には『映画けいおん!』で劇場用の長編アニメーション作品の初監督を努め、2014年には長編アニメーション映画『たまこラブストーリー』の監督として、第18回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞を受賞しています。

キャラクターを比較的大げさに動かす作風の細田守監督(『サマーウォーズ』や『おおかみこどもの雨と雪』など)や、SF描写とヴィヴィッドで少しセンシティブに青春を描く作風の新海誠監督(『秒速5センチメートル』や君の名は。』など)とはまた作風が違い、可愛い女の子キャラクターを比較的リアルに描くことが出来る監督として個人的に注目しています。

そんなスタジオ、監督が本作をどう描くのか、とても楽しみにしていました。

本作のストーリー

聴覚の障害によっていじめ(嫌がらせ)を受けるようになった少女・硝子と、彼女のいじめの中心人物となったのが原因で周囲に切り捨てられ孤独になっていく少年・将也の2人の触れ合いを中心に展開し、人間の持つ孤独や絶望、純愛などが描かれる。

聲の形 - Wikipedia

物語冒頭、本作の主人公である石田 将也(いしだ しょうや)はまだ小学生であり、「ガキ大将」(本作のパンフレットより)です。 彼と彼の友人たちは、普通にどこにでもある小学生の生活を過ごしていました。

そこに転校生として西宮 硝子(にしみや しょうこ)がやってきます。 彼女は先天性聴覚障害を持つ少女です。障害の程度は軽くなく、補聴器をつけても会話はほとんど聞き取れず、発話も不完全で他者には内容が聞き取りづらいほど。

当然、硝子はクラスに馴染めず、将也たちのグループからいじめを受けてしまい、やがてはその小学校を去ることになります。映画では描かれていませんが、原作によれば特別支援学校に行ったようです。

その後、将也はいじめの主犯としてクラスで吊るし上げられ、自分がいじめの標的になってしまいす。 友人たちもバラバラになり、やがて将也は「他人と目を合わせられない、他人を認識できない」高校生に成長していました。

将也と硝子は高校生のときに再会を果たし「かつて自分たちが壊してしまった」とそれぞれが思い込んでいる、ある意味でトラウマになっている友人たちとの関係性を取り戻すために、少しづつ前に進み始める、というストーリーになります。

誰の身近にも起こり得るテーマ

身近に障がいを持った方がいること、自分たちのグループを作ってしまうこと、そしてグループになじまない者を排除したりいじめの標的にしてしまうこと。 経験の有無はともかく、すべてのエピソードは見ている僕達の身近で、誰にでも起こり得ることだと思います。

将也と硝子のそれも、中でも最悪の選択肢だけが積み上がったものではあるけれど、一つ一つはどこにあってもおかしくない、等身大でリアルな話です。

少しだけネタバレになってしまうのですが、硝子は小学生時代には両耳に補聴器をつけていました。それが物語中盤には片耳装着(右耳の補聴器を外している)になります。 これは症状が回復したからではなく、おそらく右耳の聴力を完全に喪失したからだと思われます。そのシーンの直前、無声ですが、医師と話し合う彼女のシーンが実に印象的でした。

実際にそのレベルの聴覚障害者とのコミュニケーションは非常にむずかしいものです。 作中の硝子もそうなのですが、喋れない、ということが一種の心理的ブレーキになるのか、筆談や手話をつかっても健常者と同じような感情表現、コミュニケーションを習得するのがむずかしいようなのです。 これは僕らのような健常者からは気づきにくいポイントで、これを描いたからこそ、本作はリアルで心を打つ作品になっているのだと感じます。

もう一つ、誤解を恐れずに書いてしまうと(なのでここの文章を読んで不快に思う方もいるかもしれません。申し訳ありません)、そうした「自分たちの標準」と違うなにかを排除してしまう心境というのは、もうどうしようもないくらい自然な感情なのだと思います。 ましては感情を表現する手段がすくない小学生がいじめに走ってしまうのも、とてもリアルで、だからこそ悲しいエピソードです。

「差別をなくそう」という理想が崇高なのは間違いないのですが、その実現は正直途方もなく高い壁の向う側にあります。 だからこそ、少しづつお互いを受け入れて、歩み寄って。 なくすのではなく、壁を一緒に乗り越えるのが大事。

本作のメッセージはそういうことなのだと僕は思います。

手話の本/聴覚障害者とのコミュニケーションに関する本のご紹介

上にも書きましたが、健常者と聴覚障害者ではどうしてもミスコミュニケーションが発生してしまうことが多いです。 ここで、一冊の本をご紹介します。

ろう者のトリセツ聴者のトリセツ―ろう者と聴者の言葉のズレ

ろう者のトリセツ聴者のトリセツ―ろう者と聴者の言葉のズレ

  • 作者: 関西手話カレッジ,野崎栄美子,矢野一規,中上まりん,柴田佳子,寺口史和,磯部大吾
  • 出版社/メーカー: 星湖舎
  • 発売日: 2009/11
  • メディア: 単行本
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おそらくは世界でもはじめて、そうしたコミュニケーションの、ことばの違いを解説した本です。

なぜそんなことが起こるのか、耳で覚えた言葉と手で覚えた言葉では、どんな概念的な違いがあるのかといった、本作を理解する上で大事な要素が詰まっています。

本作をご覧になった方で、ろう者とのコミュニケーションについて少しでも興味を持たれた方がいましたら、ぜひとも読んでいただきたい一冊です。

最後に

本作のテーマは非常に重たく、そしていじめ描写なども視聴者の心に響くようにあえてぼかさず描いていることもあって、ブログ記事として取り上げるのにちょっと時間を要してしまいました。

端的に言って、平たい気持ちでレビューするのに時間がかかってしまった、という状況です。

僕の知り合いにも、聴覚障害をもった家族と生活している人が居ます。

彼の葛藤や苦悩を、僕はわかりません。

その彼が立ち上げた団体があります。 それが「NPO法人 日本聴覚障害者エンターテイメントサポート(JDES)」であり、聴覚障害者も活躍できる“バリアフリー”プロレス団体「HERO deaf japan pro-wrestling」です。

バリアフリープロレスHERO~Deaf Japan Pro-Wrestling~

正直にいって、プロレスの技術としては決して高いものではありません。プロレスという競技において、聴覚の障害というのは大きなハンデなのだと思います。また、やはり聴覚が不自由な観客が多い会場の雰囲気も独特だと感じてます。

ですが、聴覚に障がいを持つ方が、“自分たちの感じることのできる「世界」をめいいっぱい楽しもう!”という気概を感じることが出来る団体だと思います。

もしこの映画をみて、少しでも身近なだれかのことを理解しよう、という方がいれば、一度足を運んでみてください。多分僕もその会場に居ます。

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