知っておくとちょっと深く理解できる? 『高慢と偏見とゾンビ』を見る前に押さえておきたい豆知識
こんにちは、おっさんです。
実は『高慢と偏見とゾンビ』のレビュー記事を書いていたのですが、その中で豆知識的に書いていたパートが思った以上の分量になっていまして。ちょっと思い切って分割切り出しすることにしました。
それをレビュー本体を出す前にアップするとか暴挙としかいいようがない。
http://image.eiga.k-img.com/images/movie/81859/photo/2dd956a04e08796a/320.jpg?1469776692
知っていると見え方に差が出る? 当時のイングランド情勢について
映画を見る前に当時の社会情勢などについて簡単におさらいしておきましょう。というのも、作中ではそのあたりの説明がなく。
なにせ冒頭のセリフからして「ゾンビが人間の脳を食べて狂暴化するのはみんなが知っていることだが」みたいな感じに始まってしまうのです。「知らねーよ、そんなこと」から感想が始まる映画、なかなかないですよ。
18世紀のイングランド情勢について
舞台となる18世紀といえば、ヨーロッパ大陸ではナポレオン戦争で大混乱していた時期になります。
作中では対ゾンビ用に拡充している様子のイギリス軍ですが、史実でもこのころはナポレオンの襲来に備えて大拡充をしていた時期。もしかすると本作のように国庫を圧迫していたのかもしれません。
OPでもゾンビがフランスから来た、みたいな説明しているんですよね。 つまりゾンビって、ナポレオン軍や大陸からの難民、亡命貴族のオマージュですかね。
ジェントリ文化について
ジェントリとは、爵位を持たない地主階級のことです。近世イングランドでは、ジェントリは働かないことが美徳とされており、領地収入だけで生活することが普通でした。したがって、その人の財産を図るのにはこの収入の金額が一番わかりやすい指標だったといえます。
ジェントリの財産は限嗣相続といって、家を継ぐ者(たいていは長子)が大部分をもっていき、他の兄弟はわずかな金銭の身を分配されるだけ、というのが普通でした。。ベネット家ではさらに不動産は男子限定の限嗣相続らしく、姉妹たちはわずかな持参金だけでどこかの資産家に嫁がない限り、裕福に生涯を過ごすことができないという状況であったわけです。
現実では18世紀にはもうだいぶジェントリ文化が廃れてきており、ビジネスに精を出す地主も多かったようですが、作中ではまだまだ健在のようですね。
ちなみにこの作品の時代の後のロンドンは出稼ぎにきた田舎の次男、三男であふれかえるのですが、限嗣相続はその一因だったのではないでしょうか。
作中のロンドンについて
さて、本作中のロンドンには壁と空堀で囲まれたイン・ビトゥイーンという地区が登場します。ここはかつて外から押し寄せたゾンビたちに占拠されており、彼らを封じ込めらるために壁と堀で囲んだ、という設定になっています。
もともとロンドンはローマ人がブリテン島にわたってケルト人と戦っていた際の中心となった要塞都市から発展してきた歴史を持つのである意味で正しい設定です。外敵に占領される(ノルマンディー公にしてイングランド王ウィリアム1世)のも歴史からと思われます。
で、予告編動画とかを見る限り、このイン・ビトゥイーンって現在シティ・オブ・ロンドンと呼ばれる地域に見えるんですよね。
シティ・オブ・ロンドンといえば現在のイギリスの首都ロンドンの中枢の中枢。王族すら立ち寄れないといわれる世界金融市場の聖地です。これもゾンビをある種の特権階級に見立てたのでしょうか。
当時のロンドンについて
このロンドンですが、18世紀ごろから人口増加と環境汚染に悩まされます。「霧の都」というのはテムズの霧だけでなく、ばい煙汚染で空気が濁っていたことを示す名称でもあります。
その後も、限嗣相続の影響か地方からの転居者や、ジャガイモ飢饉で夜逃げ同然にやってきたアイルランド労働者もやってきて、19世紀には世界でも有数のカオスな街に発展していました。魔都ロンドンなどと呼ばれる頃ですね。フィクションではシャーロック・ホームズが、そして史実では切り裂きジャックが登場した時代です。まだデビュー前のルイス・キャロル(チャールズ・ドジソン)が幼女の写真に傾倒したのもこのころ。
特に水がひどくて飲み物は総じて高価だったため、赤ん坊にミルク代わりにジンを飲ませて死亡させる、なんて事件も起きています。また、水が悪いということは住める魚も限られているわけで、あの悪名高いウナギゼリーはこのころの食生活の名残とも。実に面白い時代です。
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この時代のロンドンを扱った書籍には『路地裏の大英帝国』『どん底の人びと』『ヴィクトリア朝の下層社会』など良書が非常に多いです。『シャーロック・ホームズ家の料理読本』も相当面白い本でした。『ヴィクトリア朝の下層社会』、絶版で手に入らなくて、熊本の古書店から取り寄せたら某有名大学の蔵書印が入っていました。研究機関なら手放しちゃいけないレベルの本だと思うのですが。いまだにアマゾンにすらないようですね。アマゾンにはよく似た名前の本がありますが、これは間違って買ったら泣いていいレベルのダメ本ですので注意。
ゾンビに占領されるより、もしかすると現実のほうが悲惨だったんじゃないか、という。
オリエンタル志向について
19世紀前後のヨーロッパ、とくにイギリスでは東方諸国、特に“黄金の国”日本が神秘の国扱いをされていたようです。 万博には日本の鎧や刀剣が並び、日本からも使節団が訪れるなどしています。
茶器にも東方由来の装飾や形状などが付くようになっていました。もともとイギリスの紅茶文化って現在のチャイのように煮立たせたミルクティーだったようなのですが、それを冷ますために一度ソーサーに移してからすする、という現在では考えられないような飲み方をしていた時代のことです。
ともあれ、作中では富裕層は日本に武術を学びに行き、そうでないものは中国に学びに行く、と設定されているのも、こうしたオリエンタル志向のあった時代をイメージして書かれたことだと考えられます。
女性の下着について
本作を見た男性は大体が目を奪われたんじゃないでしょうか。
コルセットとガーターベルトをしめ、太ももにはホルスターをぶら下げ帯剣する。いやー、エロス。
コルセットの誕生はもっとずっと古いのですが、17世紀前後から胸を押し上げ強調するように形状が変化していっています。またガーターベルトを現在のような形にしたのは一説にはエッフェル塔の設計技師として有名なギュスターヴ・エッフェルだとか。やはり19世紀の人物です。
つまり下着が実用品からエロスにむかって移り変わってきた時代なのです。すばらしい時代を描いてくれましたね。
終わりに
まだまだ正直書き足りない!
実は僕、19世紀ロンドンが大好きなのです。趣味で一時期研究していたくらい。上にいくつか関連書籍あげましたが、正直言って本作の理解には全く必要ない本ばかり。
ということで映画に関係しそうなところにできるだけ絞ってご紹介しました。ご笑覧いただければ幸いです。
高慢と偏見とゾンビのレビューはこちら
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