男くささと変態性!要するにこれ、福山雅治そのままだ! 『SCOOP!』レビュー
こんにちは、おっさんです。
今日は映画を3本もみるというハードなスケジュール。もう見たいのが目白押しで、朝と夕方に1本ずつ予定をいれたら合間ももったいなくなるて結局席を予約しちゃうとかやってたらそうなりますよね。
さて、今回見てきたのはこれ、『SCOOP!』。
https://www.toho.co.jp/movie/lineup_images/scoop_thumb_sashikae3.jpg
(映画史上に残るラストシーン)
本作の監督は大根仁。彼の監督する映画作品の脚本について、嘘か真か、かならず最後の1行が「(映画史上に残るラストシーン)」となっているとか。
すべてが事実がどうかは分かりませんが、少なくとも本作の脚本がそうなっていることはパンフレット情報で明らかになっています。
果たして本作のメインシナリオのラストが本当に“映画史上に残るラストシーン”かどうかは皆様が自分の目で見て確かめるのがいいでしょう。
さて、大根仁といえば『モテキ』『バクマン。』ですかね。まだ監督として作った映画は本数がそれほど多くないので特定の作風というのは見えてこないのですが、限りある手札をつかってうまく面白い映画つくってくる監督といっていいでしょう。 またサービス精神が旺盛で、本項のタイトルにもした「(映画史上に残るラストシーン)」なんかもそうですが、少し大げさなことをいって盛り上げていく人でもあります。
で、そんな大根監督が本作についてつぶやいたのがこちら。
映画「SCOOP!」、「君の名は。」の興収連続1位を引きずり下ろす!のは、あきらめた。断トツ2位を目指します。本当に面白いので是非ご覧ください。RT @scoop_movie_jp: 【『SCOOP!』いよいよ明日公開!!】#SCOOP
— 大根仁 (@hitoshione) 2016年9月30日
実に潔い(笑)
この人、ツイート数が以上に多いのでもちろんほかにもいろいろつぶやいているわけですが、とにかくこの発言が光っていました。
キャスト
都城静:福山雅治
何はともあれこの人。PVで出てきたときは「福山がこんな役やるのか!?」と驚いた。
その福山雅治が演じるのはフリーカメラマンの都城静(みやこのじょう・しずか)。一応フリーカメラマンという肩書ではありますが、要するにパパラッチ。芸能人や政治家のスキャンダル、トラブルを追って写真に収めることで収入を得るハイエナ。
下ネタもなんでもありで仕事の出来る男だけれど下品で変態……福山にピッタリじゃね?
彼の代表作は多すぎるのですが個人的に印象深いのは『ひとつ屋根の下』シリーズと『ガリレオ』シリーズ、そしてそのガリレオの劇場版でもある『容疑者Xの献身』。これはですねぇ、小説版も読んでほしいなぁ。新しい探偵像、犯人像を打ち出して新鮮な驚きがある傑作です。
- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/08/05
- メディア: 文庫
- 購入: 36人 クリック: 219回
- この商品を含むブログ (687件) を見る
行川野火:二階堂ふみ
そんな静の相棒となる新人、行川野火(なめかわ・のび)を演じたのは二階堂ふみ。自然に新卒の雰囲気でてるなぁ、と思うのもあたりまえで、彼女は今年22歳。グラビアでデビューしたと思ったら『脳男』『地獄でなぜ悪い』『四十九日のレシピ』や『ヒミズ』『悪の教典』などで高評価を得ています。新人らしい「素人」の表情からラスト近く、完全に「記者」の顔までできるという演技の幅広さがすごい。
横川定子:吉田羊
雑誌SOOP!副編集長で馬場の出世のライバル、さらには静のかつてのパートナーということで野火にとっても気になる“大人”の女性である定子は吉田羊さんが演じます。『HERO』でブレイクした感がありますが、事務所からバイトを禁止され、生活費はすべて事務所に借金、女優業で返済することを課せられるなどなかなかハードモードを潜り抜けた人。定子のあの感じ、なるほどなと思います。『映画 ビリギャル』『脳内ポイズンベリー』『愛を積むひと』などが代表的な出演映画。
馬場:滝藤賢一
定子と出世争いをしているもう一人の副編集長が馬場。演じるのは滝藤賢一。馬場もまた、静と組んでいた時期があり、おそらくコンビで一番走り回って“大きなネタ”を追っていたことでしょう。それだけに現在の静の状態を苦々しく思うとともに、おそらく何かがあった過去には戻らせたくない、と感じているはず。そんな馬場を演じる滝藤はずっと舞台畑で活動してきた方。『クライマーズ・ハイ』『ゴールデンスランバー』といった映画のほかに『半沢直樹』『梅ちゃん先生』などではバイプレイヤーとしてしっかりとした存在感を示していました。今回の演技を見るとポスト・大泉洋みたいな立ち位置ができそうないい役者。
チャラ源:リリー・フランキー
胡散臭い情報屋のチャラ源。おそらく静と(そして定子や馬場も巻き込んで)、過去にみんなそれぞれ傷つくような何かがあったのだろうけど、その当事者。演じるのはリリー・フランキー。『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』の作者として知られているが、そもそも社会人デビューは雑誌「ぴあ」誌上で「あっぱれB級シネマ」を連載(のちに『日本のみなさんさようなら』として刊行)だっという経歴もある。本当に何でもこなせる人だなぁ。パンフレットで静の孤独とチャラ源の孤独は東京の孤独だ、と買っていますが、これはまさにその通り。このインタビューページ、すげーいいこと言ってます。
- 作者: リリー・フランキー
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/06/29
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (33件) を見る
配役の斬新さだけじゃない、『SCOOP!』のストーリーは?
カメラマンの都城静は、かつて数々の伝説的スクープをモノにしてきたが、今では芸能スキャンダル専門の中年パパラッチとして、借金や酒にまみれた自堕落な生活を送っていた。そんなある日、ひょんなことから写真週刊誌『SCOOP!』の新人記者・行川野火とコンビを組むことになり、日本中が注目する大事件に巻き込まれていく。
物語は静の車内から。この張り込み車に、あろうことかデリバリーの女性を呼んでコトに及んでいるところから始まる。もうどうしようもないくらいの不潔感。そして底辺パパラッチの現実感がそこにある。
その静のもとに『SCOOP!』編集部から新人記者・野火が送り込まれ、彼女の暴走で取材は失敗。静は編集部に“食い扶持をつぶされた落とし前”をつけに乗り込むことになる。高額の謝礼と引き換えに、専属と野火の育成を請け負う静。どうやら彼には借金があるらしいのだが……。
中年パパラッチと新人記者のコンビは、静がうまく野火をコントロールするようにして、得体のしれない情報屋のチャラ源の協力を受けながらスクープを連発。アイドルのキス写真をすっぱ抜いたと思えば、大物政治家(多分モデルは横須賀で演説上手な一家の次男として頑張ってる彼)のスキャンダルを、繁華街で花火を盛大にばらまくというアイディアで撮影。このシーン、撮影の時に本当にそこを歩いていた一般の方が多数振り返ったそうで、そりゃそうだな、って感じではあるのだが効果抜群のようだ。
コンビの連続スクープで着々と部数をのばす『SCOOP!』だったが、その副編集長の定子は、静をただのパパラッチではなく、大物事件を追いかける報道カメラマンに復帰させようと考えを巡らせていた。彼女と静、そしてもう一人の副編集長である馬場と静もまた、かつてコンビを組んでいた仲であり、そのころにはそうした事件も扱っていたらしい。
静がそうした事件を扱わなかくなったのには過去の因縁があるらしい。どうも情報屋のチャラ源もその事件に絡んでいるようで静としてはチャラ源に「でっかい借り」があると感じている様子。同時にそれは定子から見れば静の一生を台無しにするような何かだったようで。
ここからは僕の想像だけど、おそらくはチャラ源の情報をもとに事件を追う過程で事故、それも人が死ぬようななにかがあり、その罪を背負う形でチャラ源が服役した、とかではないだろうか。チャラ源は友情を守るために堅気の生活を捨て、静はそんなチャラ源に負い目を背負う。同時に定子から見れば、チャラ源の情報にしたがったがために静が一流カメラマンになる道を閉ざされたように見える、そんな事件があったんではないか、と。
ともあれ、一度は捨てた事件カメラマンへの道に戻ることになる静。彼がおったのは4人もの女性をおそった男の現在の写真。現場検証で刑務所から出てくるときしかチャンスはない。馬場の協力もあってどうにか撮影に成功する静と野火。そして部数は過去新記録を達成する。
静と野火のコンビにも、単なるコンビ仲ではない関係に発展する。
静がカメラマンを志した理由。手渡される私物のカメラ。そして「おそらく何者かになれるとおもっていたんだろうな」という静の想いを野火に語った直後、“都城静のさいごの事件”が起こるのだ。
事件終了後、別のカメラマンとコンビを組む野火。彼女の手には、あの静のカメラが「お守り」として握られていたのだった。
小道具、セットへのこだわり
映画の中の『SCOOP!』編集部を見た瞬間、「こりゃフライデーだ、うちの編集部だ」と思いました。(中略)いろんなモノがごちゃごちゃして汚いし、芸能人を追っかける張り込み班とアイドルを撮るグラビア班とが同居しているところも、よく似ている。
(公式パンフレットより)
編集部だけでなく、例えば静の乗る張り込み車の中。雑然としながら必要なものだけが放り込んである様子なども細かい。映画のセットはどうしても「それっぽいモノ」が置かれがちなのだけど、この映画はそうではなく「本当にそこにあるモノ」が置かれている。
物語の中盤以降に出てくる静の自室もそう。なんとなく、見るだけで静がどういう生活をしているのか想像できるようになっているのだ。
また、小道具へのこだわりも素晴らしい。静のカメラは取材用のメインがおそらく「Canon EOS-1D X」。そして私物であり、思い出のカメラとして、また最後に野火に“お守り”として受け継がれたカメラがおそらく「Zeiss Ikon Contax II」。
これらのカメラは決して新品同様のピカピカではなく、よく手入れはされているものの適度に使い込まれた「味」が出ている。特にEOS-1D X。ところどころ塗装が剥げて白い地が出てしまっている。Cannonのロゴは反射防止か黒いテープでおおわれていて、カメラ上面には「MIYAKONOJO」とタイプされたテープが雑にはってある。そう、プロが使うテープってこういうモノだよなぁ、って感じ。
撮影テクニックも見ものだ。先ほどのカメラロゴの隠蔽もそうだが、撮影の瞬間に光が入らないようにコートに隠れてみたり、スーパーでの撮影ではモノを落として注目をひく役と撮影する役に分かれてみたり。本作では撮影方法も本職からいろいろと技術指導がはいっているという噂だが、なるほど、彼らの苦労がよくわかる。結果だけ雑誌で見れる僕らからは見えない部分にスポットを当てた映画なのだな、これは。
他にも背景の細かいところまで気配りが行き届いていることがよくわかり、それがこの映画独特の緊張感のある絵を作り出しているんだろう。良い映画はスタッフの愛があふれいるものだが、愛とはつまりこだわりであり、だからこの映画は良作なのだ。
さいごに
いい話だ!が率直な感想だ。
静が劇中で語っていた通り、人が何かを目指そうとしたときって、根拠もないのに「何者かになれる」んじゃないかと思ってしまうもの。たいていは何物にもなれず、ただただ大衆に埋もれてしまうわけで、本作の静もそれは例外ではない。彼はスクープこそ連発しているものの、特別優れた撮影技術をもつわけでもなく、何かの賞を受賞したわけでもない。それは物語が終了した時点でも変わらない。
つまり彼は何も成していない。だけど確かに野火に何かをのこすことができたわけで、それこそが彼の仕事のあかしなのだと思う。
何者にもなれなかった男が、結局なにもなせずに、でも確かに何かを遺した話。
そういう風に受け止めて、男の生きざまに見入る映画だった。
- 作者: 斎藤祐馬
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/08/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る