おっさん、映画を見る

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西内まりや可愛い以外の理由で見に行こうとしている人には「やめとけ」と言っておきたい 『CUTIE HONEY -TEARS-』レビュー

こんにちは、おっさんです。

“映画マラソン”の2発目(金曜夜からでは3発目)はこちら。午前中に『SCOOP!』を見て、夕方には別の作品の鑑賞をする予定。さてついでだし間にも一本みたいけど、めぼしいものはいい感じの席が空いていないな、ということで見てまいりました『CUTIE HONEY -TEARS-』。

http://piacinema.xtwo.jp/contents/google/flyers/T01a_169937.jpg

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まさかのハニー✕ディストピア、ということで、奇跡の化学反応が起こるのか、という微妙な心境で見に行ったわけですが、さてどうだったでしょうか。

結論

やっぱ駄目だったよ……

うん、わかってたんです。id:Machinakaさんにも言われましたもん、「見に行くあなたが悪い」って。個人的にも、“どうせ駄目だろうなぁ”という気持ちで見に行ったんですが、想像以上に駄目でびっくりしました。

シナリオ、カットワーク、CGや特撮を含めた演出、主演の西内まりやさんを除く役者の演技。すべての部分で合格点どころか及第点すら届いていないという悲惨な状況でして、もうぶっちきりで今年のワースト。今ならきっと『スーサイド・スクワッド』を面白く感じられるんじゃないだろうか。

ossan-movie.hatenablog.com

午前中に見た『SCOOP!』、そしてこのあとにみたもう一本が面白かっただけに、あいだの本作の落差がすごいです。あ、“もう一本”については明日以降のアップを予定しています。一応本作で恐ろしくハードルが下がった状態で見たので、レビュー記事を少し時間おいてから書こうかな、と。twitter見てくれた人がいればどの作品かまるわかりなんですけどね。

ossan-movie.hatenablog.com

ストーリー

舞台は近未来。AIに支配された漆黒の世界─。街は富裕層の暮らす上層階と貧困層の暮らす下層階に分けられていた。下層の人々は、快適な生活を維持する為に垂れ流される、上層階からの汚染物質が生み出す有害な雨の中で生活していた。そんなある時、下層階に、1体の美しいアンドロイド・如月瞳が上層階から落下してくる。彼女は、自分の生みの親である如月博士の実の娘の記憶を移植された感情を持ったアンドロイドであった。下層階で生まれ育った上層階の新聞記者である早見青児、そして下層階のレジスタンスである浦木一仁、清瀬由紀子、木村龍太たちとの出会いをきっかけに、運命の歯車が回り始めた如月。向かうは世界を支配する感情を持たない新型アンドロイド・ジル。人類最大の危機に、人々を守るために如月が下した衝撃の決意とは─!?

映画『CUTIE HONEY –TEARS-』公式サイトより。

舞台はとあるビルの上、岩城滉一演じる如月博士が西内まりや演じる「瞳」をジル(石田ニコル)から逃がそうとしている場面から始まります。逃げている状態なのにいまいち緊張感がない感じで親娘が会話していると、やがてジルもやってきます。如月博士はジルたちに銃撃を受けて、「瞳」を逃がすためにビルから突き落とす……って、それで助けられるんなら会話シーンとかいらないんじゃないのかな?

ビルから落下する「瞳」はピンクの粒子状の光につつまれて下方へ。墜落現場はスラムのような場所で、治安関係者が子どもを追い払っています。どうも侵入禁止区域とかのようなのですが、その割に装備が軽い。子どもも平然と彼らを振り切って奥へ。そこで落下してきたピンクのヒトガタを見つけます。

続いて世界観の説明。有害物質に覆われて生活圏が狭められた人類は都市を縦に拡張することにしたらしい、と。実際に有害物質が何に由来するのか、どういう危険があるのか、縦に伸ばすことの問題点などはあるのか、などは一切説明されません

ま、一応ね、下層が貧民街で上層が富裕層の住むところ、みたいな説明はあるんですが、それが絶対的に覆せないレベルの貧富の差なのか頑張れば覆せるレベルなのかがよくわからない。話が進んで主人公が下層出身なのに上層の企業に務めていることがわかって、後者なのかな、って感じ。

どうも下層では上層への抵抗運動が行われているようですが、能力でひっくり返せるレベルでしかない上下差で何やってるんでしょう、この人達。上の方針で下は切り捨てるのが気に入らない、ってことなんですが、そもそも人類の生存が脅かされている状況でそれは当然の判断というか、絶対的にジルの考え方のが正しいんじゃね?

そんな中、主人公である早見は上層のメディアで記者として働きながら、下層のレジスタンスに力を貸している、いわばスパイのような立ち位置。どうやって上層に入りこんだのか、彼が特例なのかはよくわかりませんが、上層部に入れるパスを持っているのは大きな力。そんな彼がレジスタンスメンバーを警備用アンドロイドたちから助けようとしたとき、一人の少女、如月瞳が割って入りました。彼女は黒いタイトなコスチュームに”変身”、敵アンドロイドをあっという間に殲滅します。

早見はその後も彼女を追いかけて、彼女がアンドロイドであること、冒頭の事件より20年が経過していること、その時彼女を見つけた少年こそが子供の頃の早見であること、ジルは彼女の後継アンドロイドで現在都市を統括支配していることなどが視聴者に明かされる、わけなんですが、まあそれだけ時間経過しているわりに町並みは変わっていないし、ふ〜ん、って感じ。

またこの過程で20年間瞳を養ってくれた”両親”が登場、しかし彼らも警備アンドロイドたちの行動であっさりと死亡、それを知った瞳は涙を流します。彼女は感情を持つ「不完全」なアンドロイドなのです。一方のジルは感情を廃した”完全な”アンドロイドだと。

その後レジスタンスがジルの住むタワーを倒そうとしている計画が発覚。どうやら上層の人たちが垂れ流す生活排ガス等は煙突を通して下層に流しているのですが、こんど行われる式典にあわせて排出されるガスの量はこれまでの比ではなく、下層階の人たちに深刻な影響が出るらしいのです。煙突でコントロールできるなら地中や水中を通して自然分解させれば世界ここまで荒れないんじゃないの?

で、そんな暴挙は止めないと、ということで早見と瞳はタワーに乗り込みます。途中どうしてそうしたのかよくわからないが二人は別々のルートで上層へ。瞳はよくわからん外人のパーティー会場で目立ってみせて監視をひきつけてる間に、早見が裏ルートから潜入して排ガスコントロールAIを乗っ取ろうという作戦らしいのですが、絶対もっといい作戦あったはず。 というかキューティハニーの例のテーマ曲、このパーティ会場でしか流れません。旧作ファン馬鹿にしてんのか?

ともあれ、どうにか最上階でジルと決戦。実は冒頭の事件でジルが追いかけていたのは瞳ではなく如月博士だったこと、彼は既に生体コンピュータのように都市の統治機能に組み込まれていること(絵面が凄くシュールで笑えます)、その彼も死にかけているため、瞳の動力源である“空中元素固定装置”を欲していることがジルの口から明らかに。

後継アンドロイドであるジルは瞳を圧倒するわけですが、このときのセリフ「さようなら、私のかわいいキューティーハニー」だけが本作で”キューティーハニー”という単語が出て来る瞬間です。

「“不完全”だからこそ変化できる。”完全な”ジルは成長もない」ということで最終的には逆転しますが、実は都市の排ガスはもう止められるレベルではなく、瞳は自らの空中元素固定装置を使って排ガスを固定化、クリーンな空気に変換しようとします。それは装置に過大な負荷をかける行為で、瞳自身の生命を脅かすこと。浄化には成功しますが、瞳はピンクの粒子と成って消えてしまいます。しかし、最初に彼女が落下した地点には、彼女の体から落ちたと思われるもう一つの”空中元素固定装置”が稼働しており……

というラスト。

空中元素固定装置で排ガスどうにかできるんならアンドロイド作らずに空気清浄機作ろう!

ディストピア世界のキューティーハニー

本作のような世界観をディストピアと読んだりします。 もとはSF小説の1ジャンルに属するもので、定義は様々ですが、こんな感じ。

  • 基本的には未来を描いている
  • ある種の思想統制やそれにさからったものの粛清が存在する
  • なんらかの貧富差や階級差が絶対的な基準として存在している
  • 社会の統制の枠から爪弾きにされた者たちが極貧層となる。それらの者たちによりスラムが形成されるも、中央政府によって市民の目の届かぬ地域に隔離されている

参考:ディストピア - Wikipedia

多少本作とはそぐわない部分がありますが、概ね本作はディストピアな世界である、といえます。

で、ですね。ディストピアな世界を描いた作品の完成度って設定の練り込みとか矛盾のない考証とかに結構大きな比重がかかっているんですよ。キチンと描いたスキのない世界だからこそ、そこに垣間見える差別とかがより鮮明になるし、レジスタンス活動の悲惨さや崇高さが際立つんですね。

本作はそこがホントだめ。SF的なメカニック設定だけでもぼろぼろ。上記ストーリーで触れたところ以外にも制圧をかけてくる戦闘用アンドロイドが弱すぎて抵抗運動が悲惨にみえないとか(光学センサーしか搭載していないので身を隠すだけで逃げられるとかどうも遠隔エネルギー供給なのでジルが負けた途端止まるとか、そもそもレジスタンスが全体でも5名しか出てこないんですけど……)。

いろんな要素があって主人公たちの行動に正義が全く見えない。ただ数人の若者がファッションで抵抗運動しているだけ。これじゃあね。レジスタンスで花開く抵抗の象徴「キューティーハニー」を描くシナリオになんでしなかったんだろうなぁ……

本作の監督について

本作の監督はA.T.とヒグチリョウのダブルクレジット。

A.T.ってよくわからない人なのですが、どうやらデイレクターとして「冷たい花」「TSUNAMI」「I believe」などのMVを手掛けた人のようです。他には「」のオープニング映像演出などもやっており、本作が映画初監督だと。なるほどな。

ヒグチリョウもやはりMV畑の人。「Crash」「結晶星」「CANDY」などのMVを作り、映画としては「劇場版 ゆうとくんがいく」を監督していたとか。MV含めて一つも見たことありません。

で、まあこれでわかりましたね。コイツラが諸悪の根源、真犯人。

要はこの映画、西内まりやのMVだってことよね。そのわりに曲が効果的な場面で使われてたとは思えないけど。

キャストについて

せめて主要キャストは紹介しようと思ったのですが、正直に行ってベテランの岩城滉一氏を含めて、ほぼ全員がひどい。紹介する価値なし。ただまあ監督がひどいので、ある意味被害者かもしれないですし、若手の幾人かにとってはキャリア汚し以外の何物でもないので、吊し上げ紹介みたいのはやめておきます。

たった一人、本作で頑張った、十分に及第点にあったと感じられる人。それが西内まりやさんです。

彼女は福岡の有名学園祭で見出され、モデルとしてデビューした後、映画『ライラの冒険/黄金の羅針盤』のライラ役の日本版吹き替え声優を決定するGyaOのギャオーディションにてグランプリに選ばれたことがきっかけでまずは声優として映画デビューを果たします。 その後、『スイッチガール!!』や『ホテルコンシェルジュ』などのドラマ出演を経て『レインツリーの国』で実写映画デビュー、本作ではれてヒロインになりました。

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本作とは関係ないですが、有川浩さんの作品って実写化するときに期待の若手が抜擢されることが多い気がするな。なんでだろ?

ともあれ、まだまだ演技は拙いのですが、多分与えられた役柄や演出を懸命にこなそうというのが見えて(見えちゃうのがどうか、というのはともかく)好感触です。変身シーンとかほぼ裸できつかっただろうに、頑張りが感じられます。それだけにもう少しいい脚本で作ってほしかったなぁ。

難点を上げるとすると、ちょっと美人すぎて”キューティ”ハニーというよりビューティハニーだってこと。ま、この作品でキューティハニーって単語あの1回しかでてこないしどうでもいいんですけどね。

さいごに

キューティハニーディストピアってものすごく素材は面白いんです。 鬱屈な世界観でかつてのハニーとは違う、新しいヒロインとしてのキューティハニーが見られるかと思ったのですが、ここまでボロクソに書くことになるとはね。

素材が良くても料理人が悪いとまずい飯が出来上がる、ってことですか。

西内まりやさんはただ一人良かったと思いまし、これまでの実写ハニーとはまた違う存在感を出していたと思いますので、彼女の今後には期待しています。

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