おっさん、映画を見る

広告業界で働くITエンジニアなおっさんが、映画について語っていくブログ(ネタバレもあり)

自分に悩んでいるやつは見ろ。そしてもっと悩め。軽薄なSNS時代のグロテスクさがここにある。 映画『何者』レビュー

こんにちは、お久しぶりです。おっさんです。

ちょっと遅めの夏休みをリゾートで過ごしていまして、久しぶりの映画鑑賞となりました。その休暇の様子はもしかすると別のブログに書くかもしれません。書かないかもしれません。あんま写真撮ってなくてね。ネタにできるか微妙なラインなのです。

ともあれ、本日は映画『何者』を見て参りました。

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『何者』について

本作『何者』は、2013年に直木賞を受賞した朝井リョウさんの小説「何者」が原作になっています。

御山大学演劇サークルで脚本を書き、人を分析するのが得意な拓人。何も考えていないように見えて、着実に内定に近づいていく光太郎。光太郎の元カノで、拓人が思いを寄せる実直な瑞月。「意識高い系」だが、なかなか結果が出ない理香。就活はしないと宣言し、就活は決められたルールに乗るだけだと言いながら、焦りを隠せない隆良。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた22歳の大学生5人は、理香の部屋を「就活対策本部」として定期的に集まる。海外ボランティアの経験、サークル活動、手作り名刺などのさまざまなツールを駆使して就活に臨み、それぞれの思いや悩みをSNSに吐き出しながら就活に励む。SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする本音や自意識が、それぞれの抱く思いを複雑に交錯し、人間関係は徐々に変化していく。やがて内定をもらった「裏切り者」が現れたとき、これまで抑えられていた妬みや本音が露になり、ようやく彼らは自分を見つめ直す。

何者 (朝井リョウ) - Wikipedia

作者である朝井リョウさんは2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビューした新進若手作家です。現在、『チア男子!!』もアニメ化されるなどしていますが、青春群像を現代的なキャラクター目線で描くことが上手ですよね。

そんな作者による、「就活」という人生の転機にさしかかった男女の物語が本作になります。

就活時期という逢魔が時

僕が就職活動していたのはもう15年は前になるわけで、今とはだいぶ就活事情が違います。 例えば潤滑油に代表される面接テクニックのノウハウとかは原型こそありましたが、今ほどみんなが徹底しているようなことはなかったし、SNSのようなツールは存在していなかった。悩んだらとにかく誰かに相談が基本だったわけです。

そんな時代でも、今の就活と変わらないことがありました。それは徹底的に「自分」というものの評価を突きつけられるということ。落とされるとですね、自分が全否定されたような気になってしまう。あれ、めちゃくちゃ凹むんですよねぇ。君はこの会社には、ひいてはこの社会には必要ありません、って言われている感じ。

だから感情的にもなるし、躁鬱というか、テンションの振り幅が大きくなってしまうし。とにかく「就活」という時期は逢魔が時。自分をめっちゃ見つめ直して、時としてまったく見たことない自分が出てきてしまうような時期なのです。

僕の経験談。「他己分析」の怖さと有用性。

で、そんな時期に僕らがやったのは「他己分析」でした。「自己分析」ではないです。あくまで他人。友人たちで集まって、自分ではない他人を評価する。どういう人間で、どこが良くて、どこが悪くてを洗い出す作業。めっちゃ辛かったです。思い出したくもない。

だってねえ、いいこと言われていると気分がいいですよ。でも、悪いことも出さないと意味が無いんです。「僕」という人間はどこが評価されているのか、逆にどこが批判されているのか。だから就活の結果につながっているのではないか、改善点はどこか。

そういう会である以上、努めて冷静であろうとするわけですが、人間なかなかそうはいかないわけで。どうしても腹が立って衝突したり、でもそういう議論を突き詰めていくことで腑に落ちることがあったり……

辛い経験ではありましたが、就活にも、そしてその後の社会人生活にも、「自分とはどういう人間であるのか」をきちんと把握して生活できる用になった、という意味で非常に得難い経験でした。

本作の主人公たちはよく集まっています。が、お互いのそういう部分について深く掘り下げず、だから終盤まで衝突もせず。SNSという簡易なツールの上にだけ、なんとなく本音に見えるようなことをつぶやく、薄っぺらい関係性を維持しています。

主人公たちが抱える闇

主人公たちグループは、そうした(僕から見ると)薄っぺらい関係の中でそれぞれの闇を抱えています。wikipediaからキャラクター紹介を引用しつつ、ネタバレに成っちゃう闇の部分は、クリックで開く要素で書いてみました。というか、この機能の導入が本記事で一番時間かかったところ、というw

二宮拓人(にのみや たくと)

主人公。社会学部。学生サークルで演劇の脚本を作っていたが、就職活動を機にやめる。観察能力が高く、細かなことに気が付く。

 二宮拓人の闇

重度のSNS依存であり、また分析力を周りから評価されていることもあって、他人を見下したように評する文章を裏アカウント(本作タイトル「何者」は彼のこの裏アカウント名である)でtweetし続け、他人を冷笑することで自分を維持している。

神谷光太郎(かみや こうたろう)

二宮の友人で、ルームシェアをしている大学生。社会学部。学生時代はバンド活動に注力していた。性格は明るく、コミュニケーション能力が高い。

 神谷光太郎の闇

思考停止、現状維持の性格。本質的に何も考えていない。故に無自覚に人を傷つけるが、同時に憧れた人にもう一度会いたい、というシンプルな欲望だけで就活を完走することもできる。

田名部瑞月(たなべみづき)

二宮の片思いの相手で、小早川の友人。社会学部。光太郎に片思いしており、一度告白して振られている。米国でインターンシップを経験。5人の会話の中ではどちらかというと聞き役。

 田名部瑞月の闇

一見すると何も闇を抱えていない。しかし、何かと目立つ周りに対して地味である自分を自覚しており、ヒロインではない、主人公ではない、ということを気にかけている。とはいえ、それはすべての人に当てはまることであり、だからこそ内定を一番に勝ち取った「最初の裏切りもの」である

小早川里香(こばやかわ りか)

二宮・神谷の部屋の上の階に住む大学生。外国語学部国際教育学科。留学生交流会で田名部と知り合い、宮本とは付き合って三週間ながら同棲している。米国留学を経験。就職活動に対する意識が高く、エントリーシート記入、模擬面接、OB訪問に余念がない。毎日のできごとをポジティブな言葉で脚色したツイートを慣習的に行う。

 小早川里香の闇

典型的意識高い系である振る舞いをしつつ、結果が出ない悩みを抱えつつ、グループの精神的な支えのような行いをし続けている裏で、瑞月の内定を妬むような検索をしていたり、拓人の裏アカウントを発見して本人に追求してみたり。おそらく登場人物の中で一番ドロドロしていて、だからこそ一番人間らしい。

宮本隆良(みやもと たかよし)

二宮と神谷の上の部屋に住む大学生。小早川の彼氏。小早川とは付き合って三週間ながら同棲している。小早川と同じ部屋に住んでいるため他3人が部屋に来たときも話に加わる。就職活動のありように批判的であり、当初は就職活動をしないと言っていたが、のちに4人に隠れて就職活動するようになる。

 宮本隆良の闇

批判的に振る舞いつつも、こっそりと就職活動を行っていたり、クリエイティブな行動をしつつ、クオリティを言い訳に納期をずらす提案をするなど、実力と発言がちぐはぐ。なんか最近起業するから大学やめるって言いつつ、何もしてないじゃんって批判された某君を思い出す。最後にはやはり就職を目指すことに決めて、拓人に物語すべてをひっくり返す一言を放つ。

その他、拓人とかつて劇団をやっていたギンジ、拓人を心配するサワ先輩(この人もそうとう闇が深いというか、思わせぶりなこと言い過ぎだろ感がすごいんだけど)など、登場次巻は少ないけれど彼らなりのキャラクター性で主人公たちを苛んでいく描写は見ていて非常にエゲツないと感じた。

最期に

本作中の最後のシーンはやはり面接である。そういう意味で、この作品は一貫して就活ものであると言える。

だが、そこで問われた質問に、拓人はこう答えるのだ「とても一分では表現できません」と。本来、人生は一分では語るなどできるわけもない。ただ就職試験をパスするために、それに答えることができるように準備していたかつての拓人は、就活を通るためのペルソナでしかなく、「何者」でもなかった。

最期に自分たちの行動、周囲の人間の影響でそれに自分の言葉で答えるようになった拓人は、ある意味ではじめて「二宮拓人」として就職試験に臨むことができるようになったのだろう。

と、まあ硬いことを書いてはみたけど、結局就活って自分を見つめ直す時期で、それができたものからパスしていくわけで。

ようするに

dic.nicovideo.jp

こういうことなんだよね、という話だ。