(リアルだけどリアルじゃない少しだけリアルな)現実対虚構。庵野監督がすべてを注ぎ込んだ映画 - 『シン・ゴジラ』レビュー
こんにちは、おっさんです。 本日は『シン・ゴジラ』を取り上げようと思います。
時系列でいうと鑑賞したのは『ゴーストバスターズ』より前になるのですが、本作と『ゴーストバスターズ』の2作の出来が非常に良かったため、思わずこのブログを立ち上げた次第。 ということで早いうちに記事にしておこう、と。
(リアルだけどリアルじゃない少しだけリアルな)現実対虚構
どこかのラー油のようですが。 『シン・ゴジラ』の世界で注目すべきこととして、「作中の日本にはゴジラが現れたこともなければ、巨大怪獣を描いた映画も存在しなかった」ことが挙げられます。
最初のゴジラ以外は全部ゴジラが一度来た設定なんですよね。84年の『ゴジラ』は今度のとすごく似てるんです。小林桂樹さんが総理大臣で、アメリカとの関係とか、比べるとすごく似てます。だけど最大の違いは、ゴジラが過去に来た世界なんです。
東宝はなぜ『#シン・ゴジラ』を庵野秀明氏に託したか~東宝 取締役映画調整部長・市川南氏インタビュー~(境治) - 個人 - Yahoo!ニュース
そう、この世界には「過去のゴジラ」も「怪獣」もいない。 だから僕からからはどう見ても怪獣としかいいようのないアレを「怪獣」とは言わない。あくまで巨大不明生物。 でもこの日本は3.11を経験している。どうにもならない巨大な災厄相手には自衛隊がでる、という下地ができている。 もう一つ、54年の第一作目をのぞいて、すべてのゴジラ映画は過去にゴジラが現れたことを前提にしている。だからメーサーみたいないわゆる東宝自衛隊装備が存在している。けど、本作にはそれがない。今の自衛隊が保有する装備と組織で巨大不明生物に対抗できるのか、ということがポイントになる。
今の日本によく似ているけど、ほんの少しだけ違う世界だ、ということを理解してから見ると、政府官僚の混乱シーンもなるほど道理だ、と思えるかと思います。
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会議は踊る。しかれども進まず。
そういうリアルに限りなく近い状態では、あんな巨大生物の存在も、またそれが上陸して発生する被害も、政治家や官僚は認めたくないでしょう。 複雑な手続き、会議をするためだけの会議で時間を浪費します。
けれどもそれは起きてしまう。そして彼らは「想定外だ」と叫ぶわけです。 いいですねぇ。実に「らしい」。
とはいえ、対処しなければ被害が拡大する一方という段になれば流石に彼らも腹をくくります。 遅まきながら決まる反撃、覚悟を決めて反撃の許可を出す総理(腹心であるはずの内閣連中は基本的に彼に決断を迫るだけ、というのも実に味があっていい)、現場に民間人を発見して直前で止まる攻撃、といかにも「ありそう」なシーンの連続。 怪獣映画なのに怪獣じゃないところに見せ場が多い? いやいや、この世界には「怪獣」なんていないんですよ。
まさかゴジラをマクガフィンに使うゴジラ映画が見れるとは思っていませんでした。
自衛隊の兵装はまったく通用しない
紆余曲折の後の自衛隊の反撃も、わずかに巨大不明生物の歩みを遅くしただけ。 ゴジラに最初の手傷を追わせるのは米軍の「MOP2」(架空兵器ですが、無理やり呼称するなら「バンカーバスター改」とかですかね)。
今回のゴジラは2014年のそれとちがって人類の兵器でも傷つけられるので、自衛隊だけでももう少しやれると思うんですが、いろいろ事情があったようです。 どうやら自陣営の航空機が撃墜されることに航空自衛隊が難色を示したとか。 ゴジラに攻撃が通用することはすなわち、即時反撃で全滅することを意味します。実際今回の米軍機もあっという間に全滅し、その後東京中心部は「熱線」により火の海となります。
東京壊滅のトリガーを自衛隊に引かせるわけには行かなかった、てことかもしれませんね。
BGMもあいまって、個人的に本作最大の名シーンはここだと思います。 闇夜の中、炎に包まれた東京を背負って立つゴジラには「絶望」の言葉しか出てきません。
そして、それでも諦めない、まだやり直せる、というのが本作のテーマなんでしょうね。
熱い王道展開とそれを実現するために奔走する人々
国連で決議される東京への熱核攻撃(劇中で石原さとみ演じるカヨコ・アン・パタースンはヒロシマ原爆について言及していますが、熱核兵器なので水爆ですね)のタイム・リミットが迫る中、それを止められるのは矢口プランの実現だけ、という状況に。 いいですねぇ。王道です。こうしたシンプルな2択でいいんです。理屈はいらない。 勝つためのたったひとつの冴えたやりかたにオール・イン。
最近の日本映画にはかけているのはこういう割り切りというか。なんであんな理屈こねるんだ、という冗長な展開は本作にはまったく出てきません。
またそれを叶えるために奔走する人々が、これまでやってこなかったような外交手法や、生物の分析への斬新なアプローチも見どころ。「あんなやり方、現実じゃ通用しない」なんて大人な感想はほっておけばいい。 異端児、鼻つまみ者を集めた巨災対の面目躍如。映画なんだからそういう捉え方でいいのだ。
大蛇退治=ゴジラ退治
そして始まる反撃作戦。 N700系の特攻に始まり、在来線爆弾ってマイトガインのOPかと思って声をおさえて笑ってしまいました。
ここで流れる『宇宙大戦争』のマーチ。 おもわず手で小さく膝を叩いてリズムを取ってしまいます。 人類の反撃はやはりこのBGMからですよね。
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そういえば、この作戦は「ヤシオリ作戦」と呼称されるわけですが、これってヤマタノオロチ退治に由来するんですね。
須佐之男命はヤマタノオロチ退治のために、八塩折之酒(ヤシオリの酒)というとても強い酒を用意させ、オロチがそれを飲んで酔っ払ったところに「天羽々斬剣」(アメノハバキリのつるぎ)で斬りかかり、これを打倒します。
劇中でゴジラに凍結役を飲ませる地上決死部隊の名前が「アメノハバキリ隊」というわけです。 ゴジラは中国で龍の字を当てるわけですが、日本で龍退治といえばヤマタノオロチ。大蛇退治は暴れる河川の治水の象徴なんて意見もありますが、なるほど災害を制する作戦(あくまで怪獣退治ではなく、巨大不明生物による災害の対策)名としてはこれ以上ないネーミングです。
そういえばゴジラシリーズにはいかにも龍という姿の巨大生物もいたわけですが……今後に期待が持てます。
気になるところ
「天羽々斬剣」はオロチの尻尾を切る際に刃がかけてしまいます。名刀を欠けさせるような原因はなにか、と須佐之男命が切り開いてみれば、そこからは「天叢雲剣」(後の草薙剣)というやはり名刀がでてきます。 さて、今回のゴジラの尻尾からは不気味なヒトガタのような何かが……
実に印象的なラストシーンでした。
全体として
とにかく全編どこも褒める一方になってしまいましたが、とにかく面白い。 批判されがちな石原さとみの演技だって「日系二世で少し苦手な日本語を使う米国外交官」と考えるとむしろ好演だと思えるバタ臭さ。 そりゃ会議シーンとかコメディタッチに描かれていますが、だってこれそういう映画でしょ?って話です。
スタッフ陣の前科を考えると「これは『よっしゃ、やっぱり糞映画だった!』ってガッツポーズするスタンスで見に行く映画では」なんて考えていたんですが、実際みるともう脱帽です。
過去のゴジラ映画のエッセンスを確かに受け継ぎつつ、古事記の要素も取り入れて素晴らしいエンタテインメントに仕上がっていると思います。
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