【ネタバレあり考察】結局牧悟朗元教授は何をしたのか - 『シン・ゴジラ』
こんにちは、おっさんです。
先日『シン・ゴジラ』の見どころ・良さをこれでもか、と詰め込んだ記事を書いたのですが。
本作には、そうした分かりやすいシーンやエピソードだけではなく、映画の中の情報では見えにくい、あるいはそもそも描かれていない(視聴者の想像に任せる)事柄が含まれています。
本記事ではそのなかでも特によくわからない、牧悟朗元教授のやったことについて考察していきたいと思います。
劇中では何をしていた人なのか
この牧悟朗元教授という人、果たして何をやった人物なのか。初動捜査はまずこれに限ります。 手掛かりは本編映像とパンフレット等から読み取れる情報、できればインタビュー等で制作サイドが出した情報もほしいとことですが、とりあえず劇中で語られているのは以下のとおりです。
- 映画冒頭、羽田沖のプレジャーボートに遺留品(対ゴジラ作戦のヒントになった折り紙とメモ)を残し行方不明に
- 米国が日本入国後の足取りを日本の捜査機関に依頼、上記のボートの持ち主であったことが特定された
- 日本の捜査関係者によれば、日本の大学を追われるように渡米し、現地でエネルギー関連の研究をしていた変わり種
- プレジャーボートに残されたメモには「私は好きにした。君たちも好きにしろ」
- 物語開始前は米国DOE(アメリカ合衆国エネルギー省)でどうやらGODZILLA研究をしていたらしい
- 米国から提供されたヒントを読み解くと、「ゴジラの細胞膜(あらゆる分子を分解、核種転換し摂取可能な元素にする機能を有する)の活動を阻害する微生物の分子構造」が出てきた
- 牧は日本を憎んでいた?(登場人物の推測だが、ほぼ確実と思われる)
他の方の推測
同様の疑問を持たれた方は多いようで、色々考察がされています。 その中で気になった仮説として、「ゴジラに自身の肉体を与えて(食わせて)、進化を促し、日本を襲わせた」というものがありました。
あるいは生物としてのGODZILLAに何らかの処置を施して、今回のモンスターを作り上げた、という解釈もありました。
なるほど。 これらは面白い解釈だし、物語としても美しい。 みんな色々考えるなぁ。
と一瞬考えた後で、「いや、待てよ?これだと説明が苦しいところが出てくるぞ?」と思ったのが本記事執筆のきっかけです。
誤解無いように書いておきますが、上記の方々の意見を否定するわけではなく、議論の材料としてその解釈の疑問点を出し、可能であれば別の可能性を提示しよう、議論を深める材料にしようという趣旨になります。インスピレーションを得た、というのが正しいかも。まあこの監督のことですから、どれだけ議論してもオフィシャルな解答なんて出てこないでしょうし、いろんな意見だちゃえばいいいや、とも思うし
まずは反論ポイントを列挙してみる
- 牧元教授の遺書は過去形だった。すでに済んでしまったことでないとおかしい。
- 現在のゴジラはモノを食べない。
- ゴジラは別に日本や日本人を自ら攻撃しているわけではない。
- ゴジラに人為的な進化を促すことは極めて難しいのではないか。
- 折り紙に隠された微生物の由来
この辺りが反論ポイントになります。 個別に掘り下げていきましょう。
牧元教授の遺書について
身投げしてゴジラに自らの肉体を食わせたのだとしたら、遺書が「好きにした」と過去形なのは極めておかしい表現になります。せめて「好きにする」とかでないといけないのではないか、と。まあこれは表現上の問題のレベルなので反論としては弱いですが。
ゴジラの食生
身投げ説への強い反論はこちらです。 今回のゴジラは水や空気から必要な元素をとり出す能力があるため、積極的な食事を必要としません。実際に劇中でも何かを食べる描写はありませんでした(過去には放射性物質を「食べた」とする言及はあり)。 また、この性質のため今回のゴジラはとても歯並びが悪いです。劇中でもかみ合わせが悪いと言われている他、パンフレット内でも食事が必要ないため退化したようなデザインと直言されています。 勿論、人を捕食するような性質や行動は見られません。生け贄をささげた大戸島の伝説の呉爾羅とゴジラはまるで別物と考えないといけません(というか1954ゴジラも人間を捕食していない。名前の由来程度に考えないといけない)。
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ゴジラの行動
今回のゴジラは東京を中心に甚大な人的・物的被害を出していますが、劇中の言葉でいうならば「ただ移動しているだけ」です。
東京中心部と主要閣僚をまとめて吹き飛ばした放射線流にしても、傷つけられてからの反撃であり、ゴジラが能動的に取った行動としては「ただ東京に上陸しただけ」となります。ゴジラに知性(少なくともコミュニケーションが取れるレベルのもの)は認められず、博士の怨念のようなものをゴジラにあたえた、というのはいささか考えにくい(ただし2回の上陸とも東京を縦断するコースであり、なぜそのルートを指向したのか、そこに第三者の介入の可能性があるか、といった点については議論の余地があります)。
生物としてのゴジラ
ゴジラになんらかの処置をほどこして、今回の事件を引き起こしたという説に対する最強の反論は「(SFであることを考慮しても)そんなこと出来るのか」という点です。 劇中のゴジラの進化について、第二形態〜第三形態〜第四形態まで何者も介さず自律的に行われています。 また今後も小型種や有翼種への自律進化の可能性が指摘されており、ということは第二形態以前も同様に進化してきたものと考えられます。 誰かが何かをしてあのモンスターが生まれた、というのは少し違和感のある仮説です。
人類の切り札である微生物の由来
もう一つ、元教授の残したヒントがゴジラの細胞膜の効果を抑制する微生物の構造だったという点にも注目します。こんな微生物は勿論、我々の現実世界には存在しません。ではこれは何か。可能性としてはゴジラの細胞膜という超極限環境に適応した寄生生物ではないでしょうか。 (そういえば、1984年ゴジラの主人公が、元教授と同姓同名で字が違う牧 吾郎という人物でした。そしてゴジラに寄生する巨大フナムシなんてのも登場しており、この辺はオマージュなのかな、と)
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そしてそんな生物が誕生するためには、どんな元素も分解・吸収するゴジラの細胞膜という極限環境が必要になります。教授がこの微生物の構造を遺せたということはつまり、DOE時代にはゴジラは現在の食生を獲得していた、ということになります。物語開始のさらに前の時点で、ゴジラは「人智を超えた完全生物」だったいうわけです。というかそう考えないと、すべてのヒントを事前に用意することは不可能なんです。
理屈の上ではゴジラの進化を促し、進化した先の細胞膜のあり方を予測して、それを無害化する微生物の構造をデザインする、なんて推論も出来ますが、これもSFだとしても無理筋かなぁ、と。
じゃあ結局元教授何をしたのか
僕の結論としては、もう単純にゴジラをあの場所で開放しただけだと思います。
ドラマ的にはなんともつならない結論になってしまいますが、人が何かをした結果、あんな人智を超えたモンスターが生まれたというのも味わいがなく、仕方ないかなって。
もう少し書くと。
- 発見された時点ないしはDOEが研究していた期間のいずれかの時点でゴジラは現在の食生を獲得していた
- DOE(元教授)はこれを研究し、微生物や細胞膜の情報を得た。おそらくは新元素や核種転換の可能性も
- おそらく冷凍等の方法でゴジラを封印というか保管していた(ゴジラが生物である以上、これは有効)
- 当然冷却保管できる程度のサイズだった。おそらくは微生物や原始魚類サイズ
- 元教授はこれと資料などを盗み出し、東京湾で開放した。持ち出せるサイズだったからこれが可能だった
- 盗まれた資料は軍事機密や未知の技術の塊。米国は執拗なまでに元教授の足取りを追っていた
- 同時に米国はゴジラの生体細胞の奪取や廃棄に執着していた。熱核攻撃の決議と併せて証拠隠滅を企図したと考えられる
- ゴジラは生物の本能に従って自己進化し、手近な陸に上がっただけ。今後は空や海中への回帰なども考えられた。
まあなんというか散文的につまらん結論ではありますが。わりと今の疑問全てに答えられるストーリーかなぁと思います。
最後に
僕の机の中に、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』の前売り券購入特典テレカが2枚セットでしまってあります。あれから約20年。庵野監督の映画に謎だ疑問だと議論百出する状況がすごく懐かしく思えました。
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